2012/04/29

フィルムカメラさようなら


我が家には,就職した頃,今から18年前から防湿庫がある。もう10年以上使われることなく保管されてきたフィルムカメラとレンズを,今日久しぶりに外に出してみた。そんな立派な機材ではないのだけれど,大学時代に写真研究部に属し,それなりに撮影していた頃に買った中判カメラのブロニカSQ-Aと標準レンズ(PS80mm),画質のよいスナップを撮りたくて手に入れたコンタックスT2の2台は私の大学生時代の愛機だった。

中判のブロニカSQ-Aには,露出計がついていない。といってもなんのことか分からない人が多いと思う。このカメラは,絞りとシャータースピードを手で合わせてシャッターを切るカメラだ。シャッターを押しただけでは,全くまともな写真は撮れない。画面サイズも6×6というスクエアー縦位置,横位置がない,しかもファインダーには被写体が左右逆さまに写る。それをルーペで見ながらピントをあわせ,被写体の近くに置いた露出計で露出を測り,フィルムに当てる光の量を計算しシャッタースピードと,絞りを決める。絞りによって被写界深度が変わることまで頭で計算した上で,バシャッとシャッターを切る。120のロールフィルム1本で撮影可能なのは,わずか12枚。その限られた枚数の中で徹底してこだわって撮影する。普通は重たい三脚を使うのが一般的で,手持ちで撮影することは厳しいカメラだが,自分はよく撮影旅行にもち歩いた。

フィルムカメラというものは,今では信じられないかもしれないが,現像して写真としてプリントしてみるまでどんな写真がとれたか分からない。撮った瞬間の感覚を信じて,フィルムをダークバックの中で両溝式の現像タンクに移し替え,温度管理された現像液を入れ,一定時間おきに攪拌(かくはん)し,決められた時間で液を抜き,素早く酢酸液で中和する。次に定着液で画像を定着させ,界面活性剤をつけた上でフィルムを部屋につるして乾燥させた後,自分で5コマづつ切ってネガケースに入れていく。

しかし,この時点では,まだネガ(白黒反転状態)だから,今ひとつどんな写真になるのかわからない。写真研時代は,コストが安かった白黒写真を撮ることが多かった。暗室の赤い光の中で印画紙の上にネガを置いて,上からガラスで押しつけ,引き伸ばし機の光を所定の時間照射して白黒反転させたコンタクトプリントをまず作った。

そのコンタクトプリントを見ながら,引き延ばすコマを決め,ルーペでピントや露出の具合を確かめた上で,印画紙に写真を焼き付ける作業にようやく入る。引き伸ばし機に引き伸ばすコマのネガをセットし,本番用の印画紙の代わりに同じ厚さの紙を置き,その上でルーペを見ながら引き伸ばし機のピントをあわせる。カメラのレンズと同様に,引き伸ばし機のレンズの性能も重要だ。暗室はどうしても現像液などがあって湿度が高い,乾燥剤とともに湿気を遮断するケースに入れて引き伸ばし機のレンズを管理することは写真研にとって大切なことだった。引き伸ばす大きさによって,当然光の強さが変わってくる。引き伸ばし機のレンズにも絞りがついていて,どのような味のプリントにするかを考えて値を選択する。何秒光を当てるのかについては,タイマーをセットしてその時間で自動的に切れるものを使っていた。

まだまだ終わらない,光を当てた印画紙を,現像液が入って温度管理がされたバットに素早く写し,写真の隅を竹のへらでつかみながらたまに動かし均一に現像が進行するようにし,所定の時間で素早くひきあげ,酢酸液の入ったバットにうつし中和して反応を止める。最後に定着液に放り込み長いことかけて像を定着させた後,水洗機に移し1時間程度流水にあて薬剤を流し落とす。

露出を決め,シャッターを切ってから暗室で画像が浮かび上がるまで,写真の像を見ることはできない。しかも,暗室を出てからピンぼけに気付いたり,露出オーバーやアンダーの写真に仕上がっていることもある。それでも,一連の流れを体で覚えていくと,一つ一つの作業を踏まえた上で撮影するということが可能になってくる。今なら,撮ったその場で液晶で確認することが,あの時代には全くできなかった。しかし,だからこそ作画には集中できていたように思う。今の時代は何でも便利に自動でできてしまうから,一つ一つの要素が写真にどう影響してくるかを考える必要がなくなってしまっている。

今でも,フィルム写真を使う写真愛好家は多い。デジカメには不確定要素が少なすぎるのかもしれない。デジタル処理できなかったあの時代,様々な不確定要素が作品を生み出す中に介在していた。それが,私の大学時代の写真のおもしろさだったように思う。

その後,就職してすぐEOS5(EOS5はフィルムカメラです。5Dではありません。)と何本かのレンズを買った。お金もなかったから,EOS5は中古,レンズも安物ばかり,安物のレンズの写りは期待したほどよくなく,高倍率ズームレンズの周辺部の収差がひどかった。シャープさも大学時代に単焦点ばかり使っていた自分には,許せないレベルのものばかり。そして仕事に追われて写真現像をする余裕もなくなり,カラーフィルムで撮影すると,必要以上に高額な現像代&プリント代が財布を直撃。いつしか写真を撮らない毎日が続くようになり,私のフィルムカメラ達は,防湿庫で10年以上格納されたままになっていた。



現在のマイカメラはこのデジカメだ。長男が生まれる時に撮影用にと奥さんを無理矢理説得して買ったEOS30DとEF24-105mmF4.0L。今時のEOSはもっといいのだろうけど,ボディーはそこそこ,でもレンズは性能のよいものをという選択は正解だった。大きくて重たいけど高倍率ズームながらレンズの収差が徹底的に押さえ込まれ,シャープな写真の仕上がりは全く別物。写真研究部で培った感覚が今でもこのカメラを使うとよみがえる。かつて単焦点レンズで撮影してきた経験が被写体までの距離でズームするのではなくて,最適な画角で撮影する撮影位置を自分に教えてくれる。露出計を使うことも今ではほとんどなくなってしまいカメラの評価測光に頼ることが多くなったが,いざという時,必要に応じてマニュアルを使いこなせるのが,フィルムカメラで鍛えられた私の財産だ。

フィルムカメラは全て明日売り払う予定だ。私の手元を離れてふさわしい人の手にわたってほしい。これからは作画にこだわれるデジカメ撮影環境を整備して,このブログにもそこそこの写真を掲載できるようにしたい。

1 件のコメント:

ろひ さんのコメント...

ウチにはα9があるけど
手放す気はないぜ